生成AIの業務活用が広がる中、多くの企業が「ガイドラインを作るべきか」「どう作ればいいのか」と悩んでいます。ひとえに生成AIといっても、情報漏洩のリスクや著作権の問題など、対処すべき課題は山積みです。
本記事では公的機関や大手企業の実例を交えながら、実務で使えるガイドラインの作り方を解説します。
生成AIガイドラインとは
生成AIガイドラインとは、企業や組織が生成AIツールを業務で使う際の基本的なルールを定めたものです。ChatGPTなどのAIサービスをどんな場面で使ってよいか、どんな情報を入力してはいけないかといった具体的な取り決めを記載します。
導入する目的は、主に「情報漏洩や著作権侵害などのリスクを防ぎつつ、社員が安心してAIを活用できる環境を整えること」に集約されます。
生成AIガイドラインが必要とされる理由

この章では、生成AIガイドラインが必要とされる理由として、以下の3つを解説します。
- 情報漏洩やセキュリティリスクを防げるから
- 法的トラブルや著作権侵害を回避できるから
- 社員の適切なAI活用を促進できるから
①情報漏洩やセキュリティリスクを防げるから
生成AIに業務データや顧客情報を入力すると、外部のサーバーに送信されるケースがあります。ガイドラインがなければ、社員が機密情報を誤って入力してしまう事態も起こりかねません。
ガイドラインで入力禁止の情報を明示しておけば、こうしたセキュリティリスクを未然に防げるでしょう。
②法的トラブルや著作権侵害を回避できるから
生成AIが作り出した文章や画像には、著作権に関するグレーゾーンが存在します。実際に、「AIが生成した内容をそのまま商用利用したところ、他社の著作物と酷似していた」という問題も少なくありません。
ガイドラインで生成AIの出力物を必ずチェックする体制を整えておけば、法的なトラブルを避けられます。またガイドラインには利用規約の確認義務も盛り込むとよいでしょう。
以下の記事では、生成AIの著作権について解説していますので、ぜひ併せてお読みください。
③社員の適切なAI活用を促進できるから
ガイドラインがないと、社員は生成AIを使っていいのか否か迷ってしまうこともあります。逆に、明確なルールがあれば安心してAI活用に踏み出せます。
業務のどの部分で生成AIを使えるのか、どんな成果物なら問題ないのか、ガイドラインで示すことで組織全体の生産性向上につながります。
生成AIガイドラインに含めるべき主要項目
ここでは、生成AIガイドラインに含めるべき主要項目4つをご紹介します。
- 利用目的と適用範囲の明確化
- 禁止事項と機密情報の取り扱いルール
- AIが生成したコンテンツの確認体制
- セキュリティ対策と責任の所在
①利用目的と適用範囲の明確化
生成AIガイドラインでは、最初に「何のためにAIを使うのか」を明記します。たとえば、「資料作成の補助やアイデア出し」などのように、具体的な用途を示すとよいでしょう。
またガイドラインの適用範囲も重要で、全社員が対象なのか、特定の部署だけなのか明確にしておけば、運用時の混乱を防げます。
②禁止事項と機密情報の取り扱いルール
ガイドラインには、生成AIに入力してはいけない情報も記述します。たとえば顧客データ、契約書の内容、未公開の製品情報などが該当するでしょう。
ガイドラインで機密情報の定義を明示しておけば、社員が判断に迷うことはありません。違反した場合の対応についても触れておくと、生成AIの安全な運用にもつながります。
③AIが生成したコンテンツの確認体制
生成AIが作った文章や画像をそのまま使うのは危険なので、ガイドラインでは、必ず人間が内容をチェックする旨記述しましょう。事実関係の誤りや不適切な表現がないか、著作権上の問題はないかを確認する手順を明記します。
ガイドラインに承認フローを盛り込むことに加え、責任者を決めておくことも大切です。
④セキュリティ対策と責任の所在
ガイドラインには、生成AIを使う際のセキュリティ対策を記載します。利用するツールの選定基準や、データの保存方法、またトラブルが起きた際の責任の所在も明確にしておきます。
担当者レベルの問題なのか、管理職が対応するのかをガイドラインで示すことで、迅速な対処が可能になるでしょう。
なお、上記で紹介したものは「生成AIの問題点」としてもよく挙げられています。問題点については、以下の記事でも解説しているので、ぜひご一読ください。
生成AIガイドラインの事例紹介

ここでは、生成AIガイドラインの事例を、以下のとおり紹介します。
- 総務省
- デジタル庁
- 文部科学省
- 東京都
- 大手企業のガイドライン事例
①総務省
「AI事業者ガイドライン」は、生成AIの普及を受けて2025年3月に公表されました。このガイドラインは、企業や自治体などがAIを安全に活用するための指針を示しています。
特徴は、リスクの大きさに応じて対策の程度を変える「リスクベースアプローチ」を採用している点です。生成AIがもたらす知的財産権侵害や偽情報の拡散といったリスクに対応しながら、イノベーションも促進する内容になっています。
参考:AI事業者ガイドライン
②デジタル庁
こちらのガイドラインは、国の行政機関が生成AIを導入する際のルールを定めています。このガイドラインの特徴は、利活用の促進とリスク管理を同時に進める点です。
各府省庁にAI統括責任者を設置し、高リスクな生成AIの利用については専門家による審査を求める仕組みを整えています。民間企業が参考にできる調達時のチェックポイントも盛り込まれたガイドラインです。
参考:行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン
③文部科学省
こちらのガイドラインは、学校現場での生成AI活用に特化した内容です。児童生徒の学習活動と教職員の校務、双方での活用方法を示しています。
特徴は「人間中心」の考え方を掲げ、生成AIを能力を補助・拡張する道具として位置づけている点です。ハルシネーションなどのリスクを理解した上で正しく向き合う姿勢を重視し、情報活用能力の育成強化を求めています。
④東京都
2023年8月に公表したこちらのガイドラインは、職員が文章生成AIを業務で安全に使うための環境整備に重点を置いています。Azure OpenAI Serviceを活用した共通基盤を構築し、利用前の申請とeラーニング受講を義務化している点が特徴です。
個人情報の入力禁止や回答内容の確認義務など、ガイドラインには具体的なルールが明記されています。また、プロンプトの効果的な書き方を「立場をはっきり」「目的・背景を具体的に」といったステップで示し、実務での生成AI活用を促進する内容になっています。
参考:生成AI活用ガイドライン
⑤大手企業のガイドライン事例
いまや政府のみならず、さまざまな民間企業が生成AIの普及に合わせ、独自のガイドライン整備を進めています。以下、代表的な企業の事例を紹介します。
| 企業・団体名 | 概要(目的・位置付け) | ガイドライン名・資料名など |
|---|---|---|
| 富士通 |
|
生成AI利活用ガイドライン |
| サイバーエージェント |
|
生成AIの利用ガイドライン |
| 三菱商事 |
|
生成AI利用マニュアル |
| トヨタコネクティッド(トヨタ子会社) |
|
生成AIガイドライン |
| 日本ディープラーニング協会(JDLA) |
|
生成AIの利用ガイドライン |
いずれの企業も、適切なルールを設けた上で生成AIを推進する姿勢が見えます。中には富士通やサイバーエージェントのように、ガイドラインを社外に公開する例もあります。
自社でガイドラインを作る際は、こうした先行事例を参考にしつつ、業務内容や組織文化に合わせてカスタマイズしましょう。
生成AIガイドラインの作り方・策定手順
ここでは、生成AIガイドラインの作り方・策定手順について、以下のとおり紹介します。
- 現状の課題とリスクを洗い出す
- 組織の目的に合わせた方針を決定する
- 具体的なルールと運用体制を構築する
- 社員への周知と定期的な見直しを行う
①現状の課題とリスクを洗い出す
ガイドライン作成の第一歩は、自社が抱える課題やリスクの把握です。まずどんな業務で生成AIを使いたいのか、どんな情報を扱うのかを整理しましょう。
現場の社員にヒアリングを行い、実際に生成AIを使ってみた上でリスクを確認するのも、ガイドライン作成において有効です。
②組織の目的に合わせた方針を決定する
リスクを把握したら、次は生成AI活用の基本方針を決めます。業務効率化を優先するのか、クリエイティブな活用を重視するのかなど「何を許可し、何を禁止するか」の大枠を明確にしましょう。
たとえば、「営業資料の作成には使えるが、顧客情報の入力は禁止」といった具合です。具体的なルール作りが明確になれば、ガイドラインの方向性はスムーズに定まっていきます。
③具体的なルールと運用体制を構築する
方針が決まったら、ガイドラインの詳細をさらに詰めていきます。入力禁止の情報リスト、出力内容の確認フローなど、実務で必要なルールを具体的に記載しましょう。
また、ガイドライン違反が起きた際の対応や責任の所在も明記します。運用体制については、問い合わせ窓口の設置や定期的な利用状況の確認など、生成AIを安全に使い続けるための仕組みを整えます。
現場が実際に使える内容になっているか、ガイドライン案を社員に見てもらうのもよいでしょう。
④社員への周知と定期的な見直しを行う
ガイドラインができたら、社員に周知します。ルールの内容をしっかり伝える機会を設けましょう。
また、生成AIの技術は日々進化しているため、ガイドラインも定期的に見直す必要があります。半年に一度など、見直しのタイミングを決めてくのがおすすめです。
生成AIガイドライン策定時の注意点
この章では、生成AIガイドライン策定時の注意点を3つ紹介します。
- 過度な制限で業務効率を下げない
- 技術の進化に合わせて柔軟に更新する
- 現場の声を反映した実用的な内容にする
①過度な制限で業務効率を下げない
ガイドラインでリスク対策を重視するあまり、制限が厳しくなりすぎないよう注意が必要です。たとえば生成AIの利用申請に何段階もの承認が必要だったり、使える機能が極端に限定されていたりすると、かえって業務効率が落ちてしまいます。
ガイドラインは「活用を促進する」ためのものであり、「使わせない」ためのものではありません。必要最低限のルールにとどめ、社員が生成AIのメリットを実感できる内容にしましょう。
②技術の進化に合わせて柔軟に更新する
生成AIは急速に進化しており、数ヶ月で新しい機能が登場することも珍しくないので、一度作ったガイドラインは変化に合わせて更新する姿勢を保ちましょう。柔軟な運用ができる生成AIガイドラインこそ、長く役立つものになります。
ガイドラインの改訂サイクルを決めておき、常に最新の状況を反映させましょう。
③現場の声を反映した実用的な内容にする
ガイドラインは、実際に生成AIを使う現場の社員にとって分かりやすく、使いやすいものでなければなりません。管理部門だけで作成すると、実務に合わない内容になる恐れがあります。
また、専門用語ばかりのガイドラインでは不親切なので、具体例を交えつつ、誰が読んでも理解できる文章で書くことが大切です。
生成AIガイドラインを正しくスムーズに作るなら

生成AIガイドラインを策定するには、まず担当者自身が生成AIの仕組みやリスクを正しく理解していることが前提です。表面的な知識だけでは、実務に即したガイドラインは作れません。
生成AIセミナーでは、大規模言語モデル(LLM)の仕組みから、ChatGPTやCopilotの実践的な活用方法まで体系的に学べます。プロンプトエンジニアリングの技術や、生成AIで「できること・できないこと」の見極め方も習得できるため、ガイドライン作成時に重要な判断材料が得られるでしょう。
また、セミナーでは機械学習の基礎やAI活用のフローも扱います。こうした知識があれば生成AIのリスクを正確に把握できるため、硬すぎず緩すぎないバランスの取れたガイドラインが策定できます。
未経験者でも理解できる内容になっており、ガイドライン策定プロジェクトのメンバー全員で受講すれば、チーム内で共通認識を持つことも可能です。自社に最適なガイドライン作成のためにも、ぜひご検討ください。
セミナー名 生成AIセミナー 運営元 GETT Proskill(ゲット プロスキル) 価格(税込) 27,500円〜 開催期間 2日間 受講形式 対面(東京・名古屋・大阪)・eラーニング
生成AIガイドラインについてまとめ
生成AIガイドラインは、組織が安全にAIを活用するための重要な指針です。情報漏洩や著作権侵害などのリスクを防ぎながら、業務効率化のメリットを引き出せます。
本記事で紹介した事例を参考に自社の実情に合わせたガイドライン作り、策定後も定期的な見直しを行いつつ、組織全体のAI活用を推進していきましょう。
-
Next
記事がありません