AIが急速に進化している背景には、膨大な「データ」の存在があります。AIはデータを吸収して形づくられ、私たちが使うことで、また新たなデータを生み出す。この「学習と生成のループ」がAIの進化の源泉なのです。
今回は、AIシステムを動かす「AIデータ」の基本から、データセットの具体的な集め方・作り方までわかりやすく解説します。
AIデータとは?

「AIデータ」という言葉は、AIの学習データ、Adobe Illustratorのファイル形式の2つの意味で使われています。混同を避けるため、最初にこの違いを解説しましょう。
| 項目 | AIの学習データ | Adobe Illustratorのファイル |
|---|---|---|
| 意味 | AIが学習するための教科書 | Illustratorで作られた画像の保存形式 |
| 主な中身 | テキスト、画像、音声、数値 | ロゴ、図形、グラフィック |
| 特徴 | データの質がAI性能を左右する | 拡大・縮小しても画質が劣化しない(ベクター) |
| 見分け方 | AI開発、生成AI、データセット | ファイル名の末尾が「.ai」 |
本記事で解説するAIデータは「AIの学習データ」で、デザイナーが扱うAIデータ「.aiファイル」は触れません。「.aiファイル」についてはAdobeの公式ガイド等をご参照ください。
AI対応データとは?
「AIデータ」とは、より専門的に表現すると「AI対応データ」と呼び、AIの精度を高める高品質なデータを指す言葉です。
コンピューターサイエンスの世界では、「ゴミを入力すれば、ゴミが出力される(Garbage In, Garbage Out)」という言葉があるように、高精度なAIでも、元となるAIデータの質が悪ければ、結果は無意味であるとされています。
これは、ChatGPTのように膨大なデータを扱う大規模言語モデル(LLM)であっても同様で、元データの質がその性能を大きく左右します。
AI対応データ収集の困難さ
これほどデータの質が重要視されている一方で、実際に「AI対応データ」として活用できるレベルのデータを準備することは容易ではありません。
2024年に実施したIBM Institute for Business Valueの調査では、「自社のデータが生成AI対応の品質を満たしている」と回答したテクノロジー・リーダーは、わずか29%にとどまりました。
つまり、約7割もの企業が、手元にある自社データを「AIが正しく学べる高品質な状態」にできていないのが実情なのです。
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自社データがそのまま使えないという高いハードルは、正しい手順と知識で乗り越えましょう。
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データから価値を生み出すデータサイエンティストについては、以下の記事をご参照ください。データサイエンティストの仕事内容や年収、必要なスキルなどを多角的に解説しています。
AIシステムにおけるデータの流れ・定義
AIは、ユーザーの質問に役立つ答えを出すために、「構築」と「利用」という2つのステップ(計6工程)でデータを受け渡します。これは、「教科書でしっかり勉強(構築)する→本番のテストで質問に的確に答える(利用)」という流れと同じです。
AIシステムのデータの流れ6ステップ
では、具体的なAIシステムのデータの流れを見てみましょう。
- AIの学習に必要なデータを収集
- 欠損値の補完や不要データの削除、形式の統一などを実施
- 加工したデータをもとにAIモデルを学習させ、推論できる状態にする
- 学習済みAIに、ユーザーが質問や情報(追加データ/画像など)を入力
- 学習内容をもとに、予測や分類、判断などを実行
- 推論結果を文章・画像・音声・レコメンド・予測結果などとして出力
このように、AIを動かすということは「データを得て学び、その結果からまた新しいデータを学んでいく」という、途切れることのないデータの循環そのものなのです。
経済協力開発機構(OECD)の定義
続いて、AIシステムの国際的基準である経済協力開発機構(OECD)の定義をお伝えします。
AIシステムとは、明示的または黙示的な目的のために、受け取った入力から、現実の環境または仮想の環境に影響を与える可能性のある予測、コンテンツ、推奨(レコメンデーション)、意思決定といった出力をどのように生成するかを推論する、機械ベースのシステムのことである。(和訳)
参照:Explanatory memorandum on the updated OECD definition of an AI system (EN)
結局「AIシステムの定義」とは?
この定義をわかりやすくいえば、「AIは入力されたデータを元に自分で考え、答えを自律的に作り出す」ということです。
つまり、出発点となるデータの質が悪ければ、そこから生まれる成果物の質も当然落ちてしまいます。国際的な定義からも、AIの精度を高めるためには「いかに良質な入力データを準備できるか」の重要性がわかります。
AIデータセットとは
AIデータセットとは、AIの学習用にまとめられた一塊のデータのことです。
たとえば、私たちが「ニューラルネットワーク」や「ディープラーニング」といった難しいAI用語を理解する際、断片的な情報を渡されただけでは理解できません。AIもまったく同じで、迷わず情報をインプットできるようにデータセットとして一つにまとめて与えるのです。
AIデータセットは3段階で使い分ける
AIは、学習からテストまで、3つのデータを順番に使い分ける必要があります。
| データセット | 役割と目的 | たとえ |
|---|---|---|
| ①トレーニングセット |
|
日々の学習 |
| ②バリデーションセット |
|
模擬試験 |
| ③テストセット |
|
本試験 |
なお、①のトレーニングセットのデータは、以下の3つの方法で学ばせます。
- 問題と正解をセットで教える「教師あり学習」
- 正解なしでパターンを探させる「教師なし学習」
- 試行錯誤させて最適解を導き出す「強化学習」
AIの学習は、まず、AIが正しくインプットできるようにまとめたデータセットを作り、それを学習させテストを行うことで、AIに本番で通用する実力を身につけさせられます。
AIデータセットの入手方法
AIデータセットを用意するには、主に外部データの活用、外部の業者に依頼、自社でオリジナルデータの作成の3つの方法があります。
①公開されている外部データを活用する
AIデータセットは、インターネット上で公開されている既存のAIデータから入手できます。2026年7月17日現在、以下のようなデータセットが公開されていました。
- デジタル庁「自治体標準オープンデータセット」
- 厚生労働省「【NDB】NDBオープンデータ」
- 国立国会図書館「オープンデータセット」
まずはネットで「オープンデータセット」や「データセット 無料」といったキーワードで検索してみましょう。自社が開発したいAIの目的に合ったAIデータが見つかれば、コスパ良く信頼性の高いデータでAIの学習をはじめられます。
②AIデータセット作成業者に外注する
AIデータセットは、外部サービスに委託して入手するという方法もあります。たとえば、以下のような企業がAIデータ作成の代行を行っています。
- 株式会社コネクティル
- 株式会社ブライセン
- Datatang
こうしたサービスを利用することで、AIデータの収集から整理までのすべての工程を任せられるというメリットがありますが、やはりコスト面で最も負担が大きい入手方法です。
③自社でオリジナルのAIデータを作る
AIに学習するデータセットは、自社で作ることも可能です。最適なデータセットがない場合はもちろん、以下のような場合におすすめの方法です。
- 業務データや顧客アンケートの結果を使いたい
- 過去の画像やテキストなどを活用したい
この方法は外部に委託しないためコスト面でもお得ですが、データの収集や並び替えに多くの手間と時間がかかります。
AIデータセットを作成する5つのステップ
AIのデータセット作成は、以下の5つのステップで進めていきましょう。
①使う目的を決める(仮説設定)
まずは、AIデータセットを使って解決したい課題を明確にします。このステップを仮説設定といい、つまり、「AIにどんなデータを与えて、何を解決させるか」のゴールを決めることです。
AIデータセット集めの効率性、できあがったAIの使いやすさ(実用性)を高めるためにも、慎重に目的を見極めましょう。
②素材となるデータを集める(収集)
次に、AIに学習させるためのデータを集めます。ここでは、データセットの入手先で紹介したデータセットを入手できるサイトや自社データを活用してください。
正解を教える教師あり学習の場合、データ一つひとつに「これは〇〇のデータ」という正解ラベルを貼り付けるアノテーションという作業が必要です。
③コンピュータ向けに整える(データ加工・前処理)
集めたAI学習用データは、そのままではAIが読み込めないため、以下の方法で加工・処理しましょう。
| 加工方法 | やること |
|---|---|
| 欠損値処理 | 不要なデータを消す、空欄の削除・穴埋め |
| ダミー化 | 文字を数字に置き換える(はい=0、いいえ=1など) |
| 外れ値除去 | ミス入力や現実的でない異常数値を除去 |
④ファイルの形式を統一する(フォーマット変換)
データを加工したら、次のステップとしてデータの規格や表記ルールを一つに統一します。これは、複数の場所からデータを集めると、以下のような状況が生じるためです。
- 日付データの混在(YYYY-MM-DD、MM/DD/YYYYなど)
- 数値データが文字列として保存
このような状態でデータを処理(または学習)すると、データの結合失敗やAIの計算エラーの原因になるので、表記パターンを統一して適切なデータ型へと変換させます。
⑤役割ごとにデータを分ける(データ分割)
仕上げに、完成したデータセットを学習用(トレーニング)と本番テスト用の2つに分割します。分ける比率の目安は、学習用7〜8割、テスト用2〜3割です。
これは、過去問の「答えの丸暗記」を防ぎ、応用力をつけるためです。テスト用のデータを最初に見せてしまうと、本番の正しい実力テストになりません。あらかじめ分割しておくと、初めて見る問題への対応評価ができます。
AIデータセットはセミナーで効率的にマスターしよう!
AIデータセット作成の方法を見て「データ処理ができるか不安」「仮説検証に自信がない」と感じた方もいるでしょう。
データサイエンスセミナーでは、以下のような内容に実践的に取り組み、効率的かつ分かりやすくAIデータセット作成を身につけます。
- 仮説の立て方とヒアリングの方法
- 初心者向けのデータ前処理の仕方
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AIデータセット活用時の注意点

高品質なAIデータセットにするために、以下の2つのポイントに注意しましょう。
データは「整然データ」の形で整える
AIが正しくデータを処理できるよう、以下の条件を満たす綺麗な表(整然データ)を意識して作成します。
- 1つのセルには、1つのデータだけを入れる
- データの種類ごとに、1つの表にまとめる
データの加工やAIの学習効率を高めるためにも、このルールをきちんと守りましょう。
知的財産(著作権)の扱いをクリアにする
既存のネット上の画像や動画、テキストなどを集めてデータセットにする場合、著作権侵害のリスクを避けるための確認を行いましょう。
- データの利用規約や権利関係に問題ないか
- 商用利用やAI学習への利用が許可されているか
必要であれば、使用前に適切な許可手続きを踏むことで著作権のリスクを回避できます。
以下の記事では、生成AIの著作権の基礎知識、「依拠性」「類似性」といった判断基準をわかりやすく解説しているので、ぜひこちらも合わせてご一読ください。
AIデータについてまとめ
AIシステムにおけるデータは、AIの性能を決定づける非常に重要な要素です。しかし、手元にある業務データやアンケート結果は、そのままの状態ではAIが読み込めません。
AIで使うデータは、欠損値をきれいに処理、答えの丸暗記を防ぐためのデータ分割といった正しい手順を踏むことで、初めて価値のあるAIデータへと生まれ変わります。
もしデータの加工方法や目的の決め方に少しでも不安が残る場合は、データ作成の基礎から学べるセミナーを活用してみるのもおすすめです。