CAEを活用したいが、解析できることや方法がわからずお悩みの方もいらっしゃるでしょう。そこで今回はAutodesk Fusion(旧Fusion360)のCAEに関して、解析できることや具体的な手順を解説します。
CAEへの理解を深めたい方は、ぜひ最後までお読みください。
CAEとは?
CAEとは「Computer Aided Engineering」の略で、コンピュータを使用した設計支援システムのことです。設計開発の中でCAEでのシミュレーション検証を取り入れることにより、物理的な試作を行う前段階で、製品などの性能を検証できます。
適用する分野や目的に応じて、CAEはさまざまな場面で利用可能です。CAEで解析できることには、主に以下のような内容があります。
- 構造解析
- 熱伝導解析
- 流体解析
- 音響解析
- 電磁場解析
- 機構解析
- 樹脂流動解析
このようにCAEは、さまざまな分野で製品開発のコスト低減や納期短縮、製品品質の向上に役立っているのです。なお、CADとCAEの違いを確認したい方は、以下の記事でも解説していますので参考にしてください。
Autodesk FusionのCAEの概要
Autodesk Fusionは、CAD/CAM/CAEを1パッケージで提供する統合型のソフトウェアです。このソフトが1本あれば、3DCADでのモデリングはもちろん、CAEでの各種シミュレーションやCAMを用いた加工プログラム作成まで、幅広い作業を行うことができます。
一般的にCAEは高度な専門知識が必要とされることが多いです。しかしAutodesk FusionのCAEは直感的でわかりやすいユーザーインターフェースを採っていますので、CAE初心者の方でも比較的簡単に操作を学ぶことができるでしょう。
またAutodesk FusionのCAEは、クラウド上での解析計算に対応しています。クラウド上で解析することの利点は、ローカルPCのスペックに依存せずにシミュレーション計算を行えることです。クラウド経由なら、従来のようにハイスペックなPCを用意せずとも解析結果を得ることができます。
CADやCAM操作を含め、Autodesk Fusionの操作方法を網羅的に確認したい方は以下の記事も参考にしてください。
Autodesk FusionのCAEでできること
Autodesk Fusionには、多様な解析機能が搭載されています。ここではAutodesk Fusionが対応している解析の内容と、それらの解析がなぜ必要とされているのかを解説します。なお、Autodesk Fusion CAEの仕様をより詳細に知りたい方は、冒頭の動画も参考にしてみてください。
静的応力
静的応力の解析は、物体に荷重がかかった際にその物体に対する力のかかり方や変形具合いを調べるための手法です。局所的に大きな力が加わることを回避した形状に設計できているか、部材のたわみ量は許容値以内に収まっているか等を確認できます。
CAEで取り扱う荷重は静的荷重と動的荷重に分類でき、「静的応力解析」は静的荷重における解析を行うものです。静的荷重と動的荷重の違いは下記の通りになります。
荷重の分類 | 説明 | 例 |
静的荷重 | 時間の経過によって変化しない一定の力 | 建物や設備の自重 |
動的荷重 | 時間経過と共に変化する力 | 衝撃荷重 |
機械製品や装置類の設計開発を進める際、この静的応力解析だけで事足りる場面もよくあります。他の解析方法と比較すると解析条件の設定が比較的簡単に行えることもあり、初めに覚えておきたいCAE解析の1つといえるでしょう。
非線形静的応力
「非線形静的応力」では先述した「静的応力」とは異なり、大変形や大回転、塑性変形(永久変形)を伴う解析を取り扱えます。この解析を使えば、通常の線形解析では捉えられない挙動の予測が可能です。
モード周波数
モード周波数の解析は、構造物の固有振動数や振動モードを調べるための手法です。固有振動数は「物体が外部から力を加えられなくても、その物体特有の振動数で自然に振動しようとする周波数のこと」を指します。
外部から加わる力の周波数が物体の固有振動数と一致すると、「共振」といわれる振動が大きく増幅される現象が発生してしまいます。Autodesk Fusionのモード解析では、構造物の形状や拘束条件に応じて複数の固有振動数の確認ができます。製品の振動特性の評価に活用できるでしょう。
電子デザインの冷却
電子デザインの冷却では、電子基板上の電子部品の温度や冷却性能に関する評価を実施可能です。電子機器は内部温度が上がりすぎると性能や耐久性の低下、故障を引き起こすリスクとなります。このため電子機器や電子基板の設計において、適切な冷却システムが欠かせません。
Autodesk Fusionの電子デザインの冷却においては、電子部品の温度や周囲の空気の温度、速度の解析ができます。Autodesk Fusionは電子基板の設計にも対応しているので、冷却解析と合わせて、筐体から基板の設計までを1パッケージで対応できるのが強みです。
熱
熱解析では、熱源からの熱の伝わり方や温度分布の評価が可能です。この解析は、製品の冷却設計や断熱設計の最適化に役立ちます。
Autodesk Fusionの熱解析では、豊富な材料データベースを用いたシミュレーションが可能です。ただし熱荷重と拘束が時間から独立した「定常状態」であることが必要になります。
熱応力
温度変化によって生じる応力を解析するのが熱応力解析です。金属材料は温度変化に伴って膨張・収縮し、寸法の変化が生じます。この寸法変化によって構造物が受ける応力や変形の挙動を、熱応力解析で評価することが可能です。
自動車のエンジンブロックやブレーキディスクなどは温度変化の影響を受けやすい部品なので、破損や変形を防ぐ設計を行うために熱応力解析が役立っています。Autodesk Fuisonにおける熱応力解析では、熱解析と同様、荷重と拘束が時間から独立した「定常状態」であることが必要です。
構造座屈
構造座屈は、細長い部材や薄い構造物が圧縮荷重を受けた際に生じる座屈(突然の変形)を予測するための解析です。この解析によって、座屈が生じるリスクのある構造物の安定性を評価することができます。
イベントシミュレーション(準静的と動的)
イベントシミュレーションは、製品や構造物が特定のイベント(力や衝撃、振動など)に対してどのような挙動を示すかを解析する手法です。Autodesk Fusionは準静的と動的の2種類のイベントシミュレーションに対応しており、扱うイベントによって使い分けます。
シェイプ最適化
シェイプ最適化は製品の形状を自動的に最適化する機能で、トポロジー最適化といわれる場合もあります。この機能を使えば、設定した条件に基づく強度を保ちながら肉抜きを行い、重量を最小化できる形状を算出できます。
射出成形シミュレーション
射出成形シミュレーションは、金型で樹脂製品を製造する際の樹脂の流れ方を解析する手法です。射出成形を行う際の樹脂の流れやすさは製品形状にも依存するため、形状設計の段階でシミュレーションによるあたり付けを行っておくと、後工程での手戻り低減につながるでしょう。
Autodesk社は、射出成形シミュレーションで長く実績のあるMoldflowというソフトウェアを所有しています。Moldflowと共通の材料データを使用できる点は、Autodesk Fuisonの射出成形シミュレーションのメリットです。
Autodesk FusionでCAEを行う際の注意点
ここでは、Autodesk Fusionで実際にCAE解析を行う際の注意点を解説します。
複雑な3Dモデルは単純化する
解析結果にさほど影響しない複雑形状や細かい形状は、単純化しましょう。形状が複雑になればなるほど計算に時間がかかってしまいます。
たとえば大きな形状の全体強度を確認したいのであれば、小さなネジ穴の1つ1つは解析結果にはほとんど影響しないでしょう。解析用の3Dモデルからは、そのような形状を削除しておけば解析完了までの時間短縮につながります。
CAE解析は1度実施して終わりにすることは少なく、解析と形状修正のサイクルを何度も回すことが一般的です。解析時間の短縮につながる工夫をすることで、より効率的な設計開発へとつなげることができます。
材料物性値を適切に定義する
解析を実施する3Dモデルには、適切な材料物性値を設定しましょう。CAE全般に言えることですが、シミュレーションを行う際の条件設定にミスがないかは、解析実施者が確実に確認しなければなりません。
たとえば本来、樹脂製(例:ABS)の部材に誤って金属(例:鉄)の物性値を与えて解析を実行しても、計算は実行され解析結果が出てきてくれます。しかしABSと鉄とでは物性値が異なりますので、得られる結果は現実とかけ離れた値になるでしょう。
Autodesk Fusionでは、豊富なデータベースの中から3Dモデルに材料を割り当てられます。適切な材料に設定することで、精度の高い解析を行いましょう。
メッシュサイズを最適化する
CAE解析において、メッシュサイズの最適化も考慮しておきたいポイントです。メッシュが細かすぎると計算時間が長くなり、逆に粗すぎると精度が落ちるため、解析対象に応じてメッシュサイズを最適化することが重要になってきます。
メッシュサイズを細かく設定したい箇所は、たとえば応力集中が予測される部分です。応力集中が予想される箇所はメッシュを細かくし、それ以外の部分は粗くするなど部分的に調整することも効果的になります。Autodesk Fusionでは基本的には自動メッシュを生成することになりますが、必要に応じて手動調整も可能です。
境界条件を適切に設定する
境界条件には、荷重条件、拘束条件、接触条件の3つです。境界条件を適切に設定できていないと、解析を実行できないか、実行できたとしても精度の低い解析になってしまいます。境界条件の設定で注意すべきポイントは以下の通りです。
- 荷重を与える場所や大きさは適切か
- 部材を過剰に拘束していないか
- 複数モデルの場合、接触設定の抜けもれはないか
境界条件を間違うと、解析結果を得られても使えないデータになってしまいます。適切な境界条件設定により、より現実に近い解析結果を得られるよう工夫が必要です。
解析結果の妥当性を確認する
CAE解析を行った後は、得られた結果の妥当性確認を必ず行う必要があります。解析がエラーなく実行されると結果を得られる訳ですが、得られたデータが現実的かどうかはCAEソフトウェアでは判断が付かないからです。
CAEでは3Dモデルに材料データと境界条件を立てはめれば、例え設定した条件が間違っていても何かしらの値を得ることはできてしまいます。現実から乖離した解析結果を元に設計を進めてしまうと、後々、問題につながりかねません。可能であれば過去の実機での評価結果や経験則と照らし合わせ、解析結果に疑問を感じた場合は条件を見返すようにしましょう。
Autodesk Fusionで静的応力解析を行う手順
ここからは静適応力解析を例とし、Autodesk FusionでCAE解析を実行する手順を解説します。
1.モデルを準備する
今回は図のようなL字ブラケットを解析対象とします。
静的応力解析を行うためには、まずはじめに解析対象の3Dモデルの準備が必要です。3DモデルはAutodesk Fusionでのモデリング機能で新たに作成してもよいですし、既存のモデルをインポートしても構いません。
準備する3Dモデルは、なるべく単純化しておきます。解析結果に影響を及ぼさないであろう細かな形状は削除しておきましょう。
2.シミュレーション環境に切り替える
Autodesk Fusionの画面で左上にあるタブを「シミュレーション」に切り替えます。新規スタディの中から「静的応力」を選択し「スタディを作成」します。
この操作により、シミュレーション環境に切り替わりました。ツールバーやブラウザなどのユーザーインターフェースが静的応力のものへ切り替わっていることを確認してください。
3.材料を設定する
解析対象の3Dモデルに、適切な材料を割り当てます。モデリングの時点で材料を設定済みの場合、この手順は飛ばしてください。新たに設定するには、ブラウザの中のスタディマテリアル右の「編集」をクリックします。
スタディマテリアルの項目が初期では「(モデルと同じ)」になっているはずですので、使いたい材料に切り替えましょう。今回は「ステンレス鋼」に設定します。マテリアルライブラリにない材料で解析したい場合は、物性値が分かっていれば新たに材料データを登録することもできます。
4.拘束条件を設定する
拘束条件の設定にて、モデルの固定方法を付与していきます。拘束条件の与え方が不十分だと解析が収束しませんので注意が必要です。
今回はL字ブラケットの背面を固定しますので、ツールバーの「拘束」を選択し固定したい面を指定します。タイプは「固定」でよいです。装置類に実際に組付けられている状態をなるべく再現できるような拘束条件を付与するのがポイントになります。
5.荷重条件を設定する
モデルにかかる力や圧力を設定します。実使用上、どの程度の荷重がかかる想定かを予め確認しておき、現実的な荷重条件を設定しましょう。拘束条件の中で「強制変位」を与えた場合は、荷重条件はなくても構いません。
今回はL字ブラケット先端のエッジ部に対して、Z方向に-100Nの荷重を与えます。シミュレーション環境においての座標系は、モデリング環境での座標系を引き継いでいます。入力する数値の符号に注意してください。
6.メッシュを生成する
解析するモデルのメッシュ生成です。Autodesk Fusionでは自動メッシュ生成機能を使用でき多くの場合は自動メッシュで十分な結果が得られますが、より精密な解析が必要な場合は手動で調整することもできます。
今回は自動メッシュのままでOKです。ブラウザの「メッシュ」を右クリックし「メッシュを生成」にてメッシュが切れます。これで静的応力解析に必要な一連の設定が完了しました。
7.解析を実行する
すべての設定が完了したら、いよいよ解析の実行です。ブラウザの「結果」を右クリックし「解析」を選択すると計算が開始されます。解析時間はモデルの複雑さやパーツ点数、メッシュの細かさなどによって変わってきます。
Autodesk Fusionの場合はクラウド解析を採用していますので、解析ボタンを押した後の処理はクラウド経由での実施です。これにより保有しているPCのスペックに依存せず、一定の時間で解析が完了します。
8.結果を確認する
解析が完了したら、慎重に結果を確認します。Autodesk Fusionでは、応力分布、変位、安全率などの結果を視覚的に表示可能です。色分けされた3Dモデルを回転させたり、変形スケールを変更したりして全体の挙動を把握します。
最大応力が発生している箇所や、大きな変形が生じている部分に特に注目が必要です。また、解析結果が予想と大きく異なる場合には、入力データや解析設定にミスがないかを再度確認しなければなりません。
解析結果が妥当であると判断できたら、ここで初めて設計品質の評価に入ります。強度は不足していないか、逆に過剰品質になっており、軽量化やコストダウンできる余地を残した設計になっていないかの判断材料としてください。
今回の解析結果は、「安全率:5.74」という結果でした。
静荷重に対する鋼材の安全率は、3程度の確保が目安とされることが多いため、今回設計した形状はやや過剰品質ともいえます。そこで、どこまで板厚を落とせるか検証してみます。
9.形状修正と再解析
形状の最適化を図るため、3Dモデルを修正します。
3Dモデルを修正するために、一度「デザイン」のタブに切り替えます。今回は押し出しの範囲やスケッチを修正し、板厚を5mmから4mmに変更しました。
3Dモデルの修正が完了したら、再度「シミュレーション」タブに切り替えます。3Dモデルの形状が変更されたことで、ブラウザにある「メッシュ」や「結果」の項目に未更新のマークが付いているはずです。メッシュを切り直して解析を実行します。解析の結果、安全率は3.69という数値となり、バランスのとれた形状に設計できたといってよいでしょう。
このようにCAE解析とモデル修正を何度か繰り返すことで、現物を製作する前段階で形状最適化の検証を行うことができます。設計開発にCAEを上手く取り入れ、開発コストの削減や納期短縮を図っていきましょう。
Autodesk Fusionを効果的に学ぶ方法
設計開発でCAEを活用するためには、3DCADで思った通りにモデリングできるスキルが必要です。3DCADの学習からスタートするなら、初めからプロに教わることをおすすめします。
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Autodesk FusionのCAEに関するまとめ
Autodesk FusionのCAEは多様な解析に対応しています。クラウド解析なのでローカルPCに負担をかけずにシミュレーション計算できることや、3DCADとの連携がスムーズな点も魅力的なソフトウェアです。ぜひCAEの活用方法を習得し、設計開発の効率化を行っていきましょう。
